赤の女王 牛る馬猪ふ

なまずブログ

2015年5月12日

なまず映画スペシャル鼎談(1) 三浦誠己×天願大介×田辺秋守於 2015年5月6日 ザムザ阿佐ヶ谷

ゴールデンウィークの最終日、阿佐ヶ谷ザムザでなまず映画と大田原愚豚舎のジョイント上映を行った。なまず映画二本の上映後、『赤の女王』主演の三浦誠己さんと田辺秋守さん(日本映画大学准教授)と天願の三人のトークショーがあった。その模様を二回に分けて掲載します。

天願本日はありがとうございます。なまず映画は『魔王』でスタートして『赤の女王』が二作目、『そして泥船はゆく』も含めて今日は映画館では観られない映画を三本上映するという日でございます。こんなに晴れたゴールデンウィークの祝日なのに、わざわざなまず映画を観に来るという(笑)、粋なお客さんたちですね。まだ『魔王』をご覧になっていない方は……ああ数人いらっしゃいます。では、まず田辺先生に口を切っていただきましょう。前回『魔王』の上映のときにここで田辺さんとトークをやりました。今日は二回目ですね。

田辺前回は天願監督と二人で、掛け合いと言うかスレ違いでしたけど(笑)、『魔王』という映画についての私なりの解説というか、『魔王』が持ってる、いろんな解釈を誘うポイントについて喋りました。『魔王』というのは、まず基本的には風水を司る神々の映画だということです。風水は中国思想なんですが、大きく言えば世界の秩序を示すものです。その世界の秩序が崩壊する、磁場が狂って次々と崩壊していく、つまりカタストロフィーを扱った映画だと思います。『魔王』の場合、「魔王」という超人的なキャラクターを持った男と、『赤の女王』にも出ている嘉子という、これまた極めて強力なキャラクター同士の対決の図式というものがあったわけです。ある意味ではわかりやすい映画だと思うんですね。それに比べて『赤の女王』は、私の感じでは、世界の秩序というような大きな世界観を扱う映画ではなく、ドメスティックな話になっているように見えます。もちろん、さっきカタストロフィーという言い方をしましたが、『赤の女王』も崩壊のその後の世界を描いてるという意味においては連続してるわけですが。

天願この人、哲学の先生でずっと喋りますから(笑)、三浦さん、我慢できなかったら言って下さいね。



三浦あの、カタ、カタストロフィって何なんですか?

田辺カタストロフィーというのは破壊とか破局のことです。ええと……もちろんこの二作ともご覧になったお客様はおわかりだと思いますが、決してリアリズム映画ではないわけです。ただ、あの人気のない町や村の雰囲気というのは、どこかで観た景色ですし、日本の同時的なリアリティを感じさせる風景でした。例えばソ連の監督のタルコフスキーに『ストーカー』という映画がありますね。あれは1979年に撮っていますけど、「ゾーン」という場所が舞台になっています。「ゾーン」という広大な地域がなぜか立入禁止区域になっていて、そこに男たちが侵入していく。なまず映画の二作というのはいわば「ゾーン」を描いてるのではないかと思うんです。そういう連続性があると……もっと続けましょうか?

天願自分で作って自分で解説するのは野暮なんですが、「ゾーン」という特殊なエリアを舞台にしたということではないのです。狭いエリアしか撮ってないですから、そう見えるかもしれないけど。言ってしまえば世界中が「ゾーン」になってしまった。福島の原発事故以降、世界のすべてがメルトダウンしていくというイメージが僕の中にあって、だから二本とも「震災後の映画」ですね。『魔王』ではメルトダウンが始まってしまったということを言い、『赤の女王』ではメルトダウンはどんどん進んでいるのだと。だから最初に出てくる『魔王』のステーキハウスは「ゴルバチョフ」で、『赤の女王』に出てくる居酒屋みたいな店は「ティモシェンコ」という名前になっています。メルトダウンとその後のシンボルのつもりでそうしました。最近、東京新聞に村上春樹のインタビューが載ってて、村上さんもメルトダウンという言葉を使っていましたが、彼はそのスタートはベルリンの壁崩壊だと語っていまして、そこはちょっと認識が違うんですけども、秩序が完全に壊れ、どうしたらいいかわからない時代に我々は生きている、ということは共通していると思います。『赤の女王』では、そういう大状況とは関係なく真面目に日常を生きている男の役を三浦さんにやってもらったんですけど、彼の日常の中にも様々な綻びが出てくるんです。それがリアルではない形をとって現れるのは、映画とはそういうものだという僕の考え方で……(三浦のマイクがうまく繋がらずスタッフが作業)。

三浦あーあー(ハウリング)。聞こえますか?

天願もうすでにここでも秩序の崩壊が始まっているということでしょうか(笑)。メルトダウン以降、いろんな崩壊の方向が考えられるけど、『赤の女王』では「免疫」という問題を扱おうと思ったがために、田辺さんの言うような、全状況的な破局ということから少し逸れた個別なものに見えたかもしれません。しかし、これは今我々が住んでいる世界そのものである、というつもりで撮ったんです。

田辺この映画を観てて端的に感じるのは、「風土病」、つまり古い日本語が「伝染る」という、病のようなものが映画の中に出てくる訳です。

天願その意味ではドメスティックですね。

田辺いわば日本語の祖先還りみたいなね。憑依とか悪魔憑きというのは天願監督は非常に詳しいし、彼の映画にはそれを描いたものが何本もありますけども、これは憑依や悪魔憑きではないと思う。例えばアメリカ人が突如習ったこともないラテン語で喋りだすとか、聞いたこともない意味のない言葉を喋りだすという、そういう現象、「異言」というふうに言ったりするのかな? シナリオを読んだときから、これはそれとは違うと思ったんですね。あくまでもこれは日本語の世界、日本列島の言語世界が、いわば先祖還りする、あるいは自家中毒的病のように迫り出してきてしまう。しかもそれが人に感染していく。例えば好悪の感情とか物の考え方やイデオロギーが他人に伝染るということは、いろんな映画で描かれてきたと思うんですけど、この映画がユニークというか、ほとんど空前絶後なのは「言葉が伝染る」。それを描いている映画というのは無いんじゃないかな。

天願役者さんは実際にその意味不明の言語で芝居をしないといけない訳ですが、どうでした? やってみて。

三浦台本もらって読んで……台詞は演技の手がかりになると思うんですが、普通は「お前が好きだ」とか、はっきりした言葉があって芝居っていうものが成り立ってる中で、やっぱり言葉の意味がないっていうか、いや、ないというよりも、自分たちが使っているような言葉じゃなかったんで、それをどういうふうに演技していくかというのは、本当に現場に行ってやらないと分からなかったですね。で、撮影していくうちに、自分のキャラクターというのも掘り下げていくことができたんで、演じることのきっかけのひとつを無くしてる状態で演じるという経験は、まったく未知の経験でした。撮影終盤ぐらいになると、ああ、これはこういう意味なんじゃないかとか、その言葉がストーンって嵌まったりする時もあったりして、すごく楽しかったなあ。僕はその「感染」については、監督や田辺さんのように難しく考えてはなかったと思います。いや、俳優としてはすごく勉強になりましたね。すっごい脚本書いたなと。

天願書いていて頭おかしくなりそうな感じはちょっとありました(笑)。おわかりだと思いますが、これ、アドリブが出来ないんですよ。ちょっと隙間があるから別な言葉で埋めるっていうことを俳優さんはやるんですけど、それができない。「つりりんひげのなががたな」とかいう台詞ですから。言葉を壊していって何が残るかというと、日本語の音の組み合わせでは、やっぱりリズムが残るんです。七音と五音の七五調がベースになる。それを使うと意味が全然なくても台詞っぽくなります。昔「ハナモゲラ語」っていってジャズミュージシャンたちがデタラメの言葉で遊んでたでしょう。タモリさんがメジャーにして。江戸時代にも中国語の音を真似をしたりする遊びがありました。しかし我々が七語と五語から逃れることは難しいです。書いていると、意味のある台詞なんていらないんじゃないかとちょっと思いました。撮ってても編集してても、ちゃんとそういうふうに(意味のあるように)観えちゃう訳です。だから初めて観るお客さんがどう思うかすごく怖くて、公開し始めた頃に客席で観てて、ああ、ちゃんと伝わるんだっていうことがわかってホッとしたんです。

三浦俳優としてはですね、監督に質問しづらいというか……ここでこういう台詞言うんですけども、これはどういう意味なんですかっていうことが(笑)。その分、自由にやらせて貰えたというか、自分の考えたことをやってみて、現場で共演者の方と遊べたりするのがすごい楽しかったですね。でも監督はどういう意味を考えながらやってらっしゃったのか。やはり実験ということなんでしょうか。

なまず映画スペシャル鼎談2に続く

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