赤の女王 牛る馬猪ふ

なまずブログ

2017年8月7日

妙な話の研究3

いよいよ「二輪草」再演の幕が開く。
一同あらたな気持ちで稽古に取り組んでいるので、より濃密で面白い作品をお見せできると思う。
ゴールデン街劇場でお待ちしています。

夏だから、というわけではないが、私の愛好する奇妙で不気味な昔の話を、またいくつかご紹介しておこう。怪異の話だけどいわゆる怪談ではなく、どれも突然終わるところが味わい深い。
オチをつけないと終わった気がしないのは近代的な考え方で、そもそも物語にオチなど必要ないのである。

高野山の奥の院に西行が住んでいた頃の話。
仲の良い友人が都に上ってしまったので人恋しく思っていたところ、鬼が人の骨を集めて人を作るという話を聞いた。友だちを作ればよいのだと思い、荼毘の行われる野原に行って骨を拾い集め、それを組み合わせて反魂の秘術を施して人を作ってみた。
できたものは人にとても似ていた。しかし色も悪く、心も備わっていない。声は楽器のようだ。心が備わっていればこその声を、ただ仕組みで作ろうとしたので吹き損じた笛のような音しか出なかったのだ。
作った「もの」は不思議にも生きている。西行はこれをどうしたものか思い悩んだ。これは失敗作だ。でも壊せば殺したことになるのではないか……。西行はそれを山の奥に連れていき、置き去りにしてしまった。
その後、伏見の中納言卿に教えを乞うと「原因は反魂の術が早すぎたからだ。実は私も作ったことがある。そいつは今、大臣になっているんだが、秘密を漏らすと作った者も作られたものも溶けて消えてしまうので、絶対に言えない」と言って細かいコツを教えてくれた。西行はそれを聞いているうち何となく空しく思って、作るのをやめた。

西行伝説の一つで、原文には反魂の術が詳しく書かれている。昔は人骨があちこちに散らばっていて、拾うのに苦労しなかったのだろう。要するにフランケンシュタインのようなものだが、こちらは理屈も何もない。大体、友だちが欲しいから(男色と考えるべきだろうが、だとしても)人骨人間を作るという発想自体狂っている。しかも人骨人間が大臣になってたりして、あちこちに暮らしていたということだ。しかし、山に捨てられた、人のような「もの」はどうなったのだろうか。

ある京の貴族が美濃の関白の荘園を預かっていた。そこの一人の従者を重用し、京に呼んで勤めさせた。任期を終えたので、美濃に帰した。
馬に乗って帰国する途中、従者が勢田の橋に差しかかると、衣の裾を取った女が橋の上に立っている。
「もし、貴方はどこへいらっしゃいます」
「美濃へ」
「ならばお言づけを頼みたいのですが」

女は懐より絹に包んだ小箱を出し「この箱を某の橋のたもとまでお持ちくださいますれば、橋の西詰に女房が待っているので、その女房にこれをお渡し願います」
従者はその女の様子に何やら恐ろしさを覚え、断れずに箱を受け取った。
「その女房とはどなたでしょう。会えぬときはどこを訪ねればよいのか、誰から受け取ったと言えばいいのでしょう」と訊ねたが、女は「間違いなく女房がいますのでご心配なさらずに。ただし、ゆめゆめこの箱を開けてはなりませぬ」と言うと、立ち去った。
美濃に着いて、某の橋に差しかかったとき、従者は女の頼みを忘れて過ぎてしまった。家に戻ったときに思い出し、「しまった。まあ、いずれ渡せばよいだろう」と納戸に上に置いておいた。
この従者の妻はとても嫉妬心が強かった。夫の様子を見ていた妻は「これはどこかの女に与えるために京で買ってきたものを隠しているに違いない」と密かに箱を開けてしまった。
箱の中には、えぐり取った目玉と、毛をつけたまま切り取った男根が、おびただしい数入っていた。
驚き慌てた妻に聞いた従者は、「見てはならぬと念を押されていたのに困ったことになった」と元通りに紐で結び、教わった某橋のたもとでしばし佇んでいた。やがて一人の女房が現れた。
女はただならぬ表情で「この箱を開けただろう」と言う。「いや、そんなことはしていない」と言って箱を渡すと、その女房が受け取ったので逃げるように家へ帰った。
従者は気分が悪くなって、そのまま床につき、すぐ死んでしまった。
妻が嫉妬をするとろくなことにならない。

これも何だかわからない。何でそんなものを箱詰めにして届けさせたのか、受け取ったのは何者か、まったく書いていない。ただ、おそろしい。
それにしても、「妻が嫉妬するとろくなことにならない」という結論を言うためにこの内容を考えたとすると、まったくどうかしている。

関白太政大臣の娘、絶世の美女で天皇の后である女性が物の怪に惑わされたという。
霊験あらたかなる僧を集め、修法を執り行わせても効果がない。
その頃、金剛山に一人の聖人が住んでいた。長年修行し法力を得、鉢を飛ばして食物を取り寄せ、瓶をやって水を汲ませるなどしていた。それを聞いた天皇と父の大臣は使者を聖人に差しむけ、祈って欲しいと頼んだ。
聖人が加持を行うと侍女の一人がにわかに狂い、哭き喚き、物の怪が憑いて走り騒ぐ。更に加持を強めると、侍女の懐より一匹の老狐が飛び出し転げ回った。聖人は狐を捕まえたところ、すぐに后の病も癒えた。
聖人は感謝され、しばらく后の近くにいることを命じられた。
夏のことである。后が単衣でいらしたとき、風が吹いて几帳が開いた。聖人は隙間から后の姿を見てしまった。その美しい姿にたちまち聖人は欲情してしまったのだ。
愛欲に取り憑かれた聖人は御張の中に忍びこみ、寝ている后の腰に抱きついた。必死に抵抗する后を聖人が犯そうとする。女房たちが気づいて大騒ぎとなり、侍医が取り押さえた。天皇は聖人を獄舎に繋がせた。
「我死して鬼となり、后がいるかぎり我が物にしてみせる」聖人が泣きながら誓いを立てたのを聞いて、天皇は怯えて金剛山に帰すことにした。
さて、金剛山に戻っても聖人の愛欲の情は鎮まらない。ついに食を絶って餓死すると、たちまち鬼となった。身の丈八尺、肌は黒く漆を塗ったようで、目は輝き口には剣のような歯と上下に牙、赤い褌をつけた裸身の怪物である。
この鬼がにわかに后の御殿の几帳の前に出現したので、宮中の人々は驚いて逃げ出してしまった。鬼の魔力は后の正体を狂わせたようで、后は微笑み、扇で顔を隠して鬼と臥処(ふしど)をともになさったのだ。鬼に抱かれた后は嬌声をあげ笑いさざめいていたという。日が暮れると鬼は去り、后は常と変わる様子もない。ただその眼差しにいささか恐ろしげな光があるように見受けられた。
鬼は毎日現れ、すると后は正体を失う。天皇はただ嘆くばかりであった。

鬼はある人に憑依して、自分を取り押さえた侍医に怨みを晴らすと告げた。恐れおののいた侍医は、すぐ死んでしまった。侍医たちの息子も全員発狂して死んだ。
天皇と父の大臣は困り果て、法力を備えた僧に祈らせた。すると鬼は三月ばかり現れず、后も少し正気を取り戻した様子。天皇は安心して后の御殿に出かけていった。
天皇が語りかけると后は以前にも変わらぬ美しさである。ああよかった。と、そのとき鬼が御殿の隅より躍り出た。后はまた正体を失い、諸人の見守る中、后は鬼とともに伏せって、見るに耐えぬ狂態をお見せになったのである。
天皇は嘆きながら帰ってしまった。

不思議な話だ。お話の構造だけはしっかりしているが、肝心なところで説明がなく、やはり放り出したように終わる。
最初の狐が聖人に影響したのだろうか。修行を重ねた聖人なのに、惚れた女とセックスしまくるために鬼にまでなってしまうとは。性格も恨みがましい。侍医に逆恨みして息子たちまで殺してしまうのだ。
三月現れなかったのは、天皇を油断させておびき出し、その前で后を可愛がってみせるという変態的復讐だ。性格も悪い上に変態で、しかも修行で力を得た鬼である。とはいえ嘆くばかりの天皇も情けない。
私としては、愛欲に支配された変態鬼よりも、それでもずっと美しいままの后というのが一番おそろしいと思う。
その後どうなったか知らないが、こういう女はきっと死ぬまで美しかったのだろう。

ゴールデン街劇場の「二輪草」では、なまず映画の上映もあります。
お盆休みに奇妙な話をご覧になるのもまた一興かと。


métro
『二輪草 「孤島の鬼」より』

原作    江戸川乱歩
作・演出   天願大介
出演    月船さらら 若松力 村中玲子 鴇巣直樹
美術    加藤ちか
照明    沖野隆一(RYU CONNECTION)
音響    青蔭佳代(音スタ)
音楽    めいな.Co.
舞台監督  影山翔一
制作    ジェイ・クリップ

新宿ゴールデン街劇場
新宿区歌舞伎町1-1-7 マルハビル1F
JR新宿駅東口より徒歩7分 新宿三丁目駅E-1出口より徒歩1分

8月9日(木)~13日(日)
9日(水)16:00/19:00 (完売)   
10日(木)16:00/19:00 
11日(金)13:00/16:00/19:00 
12日(土)13:00/16:00/19:00 
13日(日)13:00/16:00

受付当日券販売:開演の1時間前 開場:開演30分前
料金:前売・当日 桟敷自由席(12席限定) 3500円 ベンチ自由席 3500円

チケット予約
◎ジェイ.クリップ
電話受付:03-3352-1616 (平日10:00~19:00)
◎カンフェティ
電話受付:0120-240-540 (平日10:00~18:00)

ネット販売:カンフェティ

      CoRich舞台芸術

★なまず映画上映
11日最終回上演後『魔王』
12日最終回上演後『赤の女王』

※なまず映画ご鑑賞の方は別途1200円頂きます。
※上演は約70分を予定しておりますが、終演時間は多少前後する場合もございます。
※公演をご観劇でない方も映画だけのご鑑賞も可能です。

各詳細はトピックスに掲載いたします。

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