天願大介のなまずブログ

2016年12月29日

妙な話の研究2

今年も終わりである。俺にとっては大変な年だったが、皆さんはいかがだったろう。そのとき重大に思っても、時間が経つと何であんなに大騒ぎしたのか不思議に思うことは多い。もちろん、その逆もある。現在を生きる我々はその場その場の判断で精一杯で、走りながら振り返る過去像は常にブレている。何が正しくて間違っているのか、実は最後までわからないのだ。

以前、昔の人が記した奇妙な話のことを書いた。評判が微妙によかったので、またいくつか書く。

市ヶ谷に住むある男、陰嚢がどんどん大きくなり巨大化した。座ると頭より金玉がでかい。前から見ると身体が金玉に隠れて見えないほどである。当然外出もできないので、金玉と腹の間から手を出して脇のほうで草鞋などちょこちょこ編んで暮らしていた。
ある晩、裏の金持ちの屋敷で祝いがあり、名主をはじめ皆集まってどんちゃん騒ぎ、酔った勢いで大金玉男の家に寄った。
名主がふざけて「何とも見事な金玉だ。どうだ俺に五百両で売らないか」
大金玉答えて「この金玉は今や世間の名物、とても五百ではお売りできません。三千ならばお売りいたしましょう」
聞いていた隣人が「なるほどこの見事な玉は五百ではとても売れない。だが三千はいささか高すぎる。どうだ、中を取って千両で」と口をきき、大金玉男も日頃お世話になってる名主さんであらばと了解した。それで決まりだと手じめまで打って、一堂大笑いになったという。
ところが──その後から名主の陰嚢が痛みだした。どんどん膨れていく。薬罐ぐらいになり大釜ほどになった。大金玉はというと、こちらは日ごと縮んでいき三年で普通の状態に戻った。金玉が大きすぎて動けなかった反動か、その男は飛脚になったという。
名主の金玉は大金玉の三分の一ほどの大きさで止まった。大金玉から名主に移動するときに減ったのだともっぱらの評判であった。

昔、備中国に郡司の息子がいた。若い頃、妙な夢を見たので夢解(ゆめとき=夢占い)の女を訪ねた。
女と話をしていると、ある一団がやってくる。国守の若君と共の連中である。郡司の息子は脇の部屋に移り、穴から覗いてみた。
若君の夢を聞いた女は「それは世にも素晴しい夢でございます。あなた様は必ずや大臣に出世することでしょう。でも、このめでたい夢については誰にも話してはいけません」若君は喜んで衣を脱ぎ、女に与えて帰った。 郡司の息子は部屋から出ると、「あの若君の夢が欲しい」と言いだした。「国守は任期が過ぎれば都に帰ってしまうが、俺はこの国の人間だ。大事にしたほうがいいぞ」女は答えて「では、先程の若君と同じように家に入り、若君の語った夢をそのままお話しください」
言われた通り、彼は若君をそっくり真似て夢語りをした。女も先ほどとまったく同じ夢解きをする。彼は衣を脱ぐと、女に与えてその家を立ち去った。
その後、郡司の息子は勉学に励んで出世し、唐土(もろこし)へ派遣され、最後は大臣にまで上りつめた(モデルは吉備真備らしい)。
一方、夢を取られた若君は出世できなかった。もし夢を取られる事がなければ大臣になれたに違いない。

幸福も不幸も人から人へ移動できるのだ。夢も金玉も。妙な契約を結んでいるところがリアルというか何というか。三分の二減った金玉は、一体どこに消えたのだろうか。

美濃国の百姓の妻が、あるとき死んだ舅の夢を見た。
舅が言うには「明日、地頭が鷹狩りをするが俺の命は助からないだろう。もしこの家に逃げてきたらどうか隠してくれ」
翌日鷹狩りが行われ、一羽の雉が飛び込んできた。妻は夢を思いだして咄嗟に釜の中に隠す。そこへ獲物を追ってきた狩人があらわれ、あちこち探しまわったが釜の中とは気づかず、出ていった。
夜になって夫が帰宅した。妻の話を聞いて釜の中から雉を取りだしてみると、怯えることもなく撫でるとじっとしている。しかもこの雉は片眼が潰れている。生前の舅も片眼だったのだ。感動した妻が涙を流すと雉も涙を流すではないか。
夫も感動し、「まぎれもなく、これは我が父である。前世に親子の契りがあればこそ、わざわざここに来たのだろう。きっと子に食われたいに違いない」
二人は雉を捻り殺して食ってしまった。

伊勢の海辺に平忠盛(清盛の父)が行ったときのこと。
漁師たちは毎日網を曳いていたが、ある日、見たこともない大きな魚が三尾、網に掛かった。
身体は魚なのに頭は人間のようで、しかし歯は魚のように細かく鋭く、口は突き出ていて猿に似ている。丈は人間より大きく、尾がとても長い。人が寄ると唸る。その声は人のようでもあり、人のように涙を流していた。
漁師たちは話し合い、忠盛に二尾を献上することにした。しかし忠盛は不気味に思ったのか、そっくり返してきた。それで漁師たちは三尾を切り分け、全部食ってしまった。とても美味しかったという。

何でも食ってしまうのは、野蛮というよりも強いということだ。涙を流すのは人間の証拠らしい。
年末なのでもう一つ。これも好きな話。

修行の僧が東国に行ったときのこと。日が暮れて、とある家に一夜の宿を求めた。
その家は老婆と娘の二人暮らしで、ささやかな食事で僧をもてなした。夜も更けた頃、老婆が娘に「人形を持ってきて湯浴みをさせましょう」と言った。不審に思った僧が寝たふりをしながらそっと様子を窺うと、娘は納戸から六、七寸の裸の人形を二つ持ってきて、盥に張った湯の中に入れる。すると人形は湯の中を泳ぐではないか。あまりの不思議に寝床を出て訊ねると、老婆は「この婆が作ったものでございます。よろしければ差しあげましょう」「これはよい土産をいただいた」僧は翌朝、一体を風呂敷に包んで出発した。
しばらく歩いたとき、風呂敷の中から人形が「ととさま、ととさま」と言う。びっくりして「何だ」「向こうから来る旅の男が躓いて転びます。薬をやると金子をくれますよ」その言葉も終わらぬうちに向こうから来た男が転んで血を出したので、手当をして薬を与えたところ、礼金をくれた。
またしばらく行くと馬に乗った旅人が来る。風呂敷から「ととさま、ととさま、あの旅の人は馬から落ちます。薬をやると金子をくれます」途端に旅人が落馬し、また介抱したら礼金をくれた。
僧は何となくぞっとして、人形を取り出して道端に捨てた。ところが人形はひょいと立ち上がると、「ととさま、ととさま」と追い駆けてくる。その速いこと、たちまち追いつき僧の懐に飛び込んでしまった。「もう、ととさまの子なれば、離れることはなし」
「ああ、妙なものをもらってしまった」
仕方なく僧は旅を続けて次の宿に泊まった。夜更けにそっと起きて宿の主人に相談したところ、「明日、川にぶつかったら裸になって人形を菅笠の上に乗せ、川に入り、腰までの深さのところで溺れたふりをしなさい」
僧は翌日川に入って水中で膝をつき、そっと笠を外した。笠に乗った人形はくるくる回りながら、どこかに流されていった。

大雑把でおおらかでいい加減なところに妙味がある。
どれも本当にあったこととして書かれていて、どこの誰から聞いたか具体的な名前も記され、本人が語った話もある。昔の人にとってのリアルは、今とは違っていたということだ。
では昔がデタラメで今がきちんとしているかというと、俺にはとてもそうは思えない。政治も経済も制度も法律も、何もかもデタラメじゃないか。きちんとしたことなど実は一度もなかったのだ。歴史など後の都合で整理しただけ、実体はそれぞれの欲望が生み出した偶然、無意味、不合理、例外、ひどいデタラメに満ちている。
世界はデタラメだから抵抗しても無駄だという話ではない。だからこそ抵抗する意味がある。デタラメならば、弱者貧者ゲリラが勝つことだってありうる。後で都合よく整理すれば何だって必然に見える。

物語の役割は、デタラメな世界に意味や理由を与え整理することだった。人は無意味に耐えられないからだ。だが──それももう限界ではないだろうか。そっちが金になるのもわかるけど、知性があればこの世界がデタラメなことは自明だ。

デタラメをデタラメのまま描くこと、構造が緩いこと、理由を求めないこと……そしてシュールでも不条理でもない物語の可能性について、俺はずっと考えてきた。材料が揃ってきたので、そろそろ形にしたいと思っている。

沼地に棲息するなまずのように、我々はしぶとく活動を続けます。新年1月14日に池の上のバー、28日には千歳船橋のバー、2月18日は千駄木の蔵で上映いたします(情報をご確認ください)。

何が正しくて間違っているのか最後までわからないのなら、それぞれ正しいと思うことをすればよい。

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