天願大介のなまずブログ
ハミ出すこと
今は『魔王』の編集の最中である。
脚本を書くことを通じて脳内の妄想を爆発させるわけで、これは書く人にしかわからない快楽がある。撮影現場になると今度は現実と闘うわけで、毎分毎秒巨大なものと勝負する感じがあって、一度経験するとやめられない。
しかし映画制作の快楽にはまだまだ先がある。編集という作業が、これまた痺れるほど面白いのだ。映画の秘密はすべて編集に隠されている。
映画は脚本の順番通り撮影するのではなく、いろんな都合でバラバラに撮影するもので、現場では頭の中で編集しながら撮っている。そのバラバラなピースを一つに繋げたとき、初めて映画の全体像が現れる。現場で力を出し尽くし最初の編集を見たとき、俺は大体絶望する。
しかし、そこからが映画の闘いだ。あらゆる技と知恵を駆使して作品を整えていく。この作業は地味で苦しいが、編集の過程でその作品の本質を発見確認することも多い。
さて、編集しながらぼんやり考えたことを書いておく。
俺が好む映画には共通点がある。
感覚的な言い方になるけど、それは「ハミ出す」ということだ。どんな映画であれ、画面からハミ出してくる力、その圧力に俺は感銘を受ける。
ハミ出していないものは俺には面白くない。どんなに上手に作ってあっても、内側から圧力が伝わってこない映画は俺にとっては映画ではない(むしろ上手な映画は大抵面白くない。「上手に作る」というのは、ハミ出さないように作るということだから)。
だけど、ただハミ出せばいいというものではないのだ。
ただの無秩序は論外。人生がデタラメでもそれが作品に直結するわけではない。
ハミ出す人たちは、どうしたってハミ出してしまう。今度こそちゃんとやろうと思っていても、どうしてもハミ出してしまう、コントロール不能の狂ったような荒々しさ、絶望的な純粋さに圧倒されたいのである。それは巨匠だろうが新人だろうが関係ない。「壊す」とはちょっと違う、そこまで意識的ではない圧力。むしろ壊すまいと思っているのにハミ出してしまう感じがセクシーなんだけど。
だから昔から三上寛の歌、水木しげるの漫画、立川談志の落語、谷崎潤一郎の小説、ラース・フォン・トリアーや石井聰亙(岳龍)、デュシャン・マカヴェイエフの映画が好きだった(『世界で一番美しい夜』でスズキコージ画伯の絵と三上寛の歌を撮影したときは幸福だった)。
でもそういう正統ハミ族だけでなく、ちゃんとした人が突然ある作品でハミ出してしまうこともあってそれも大好物だ。何とかハミ出そうとしても結局小じんまりまとめただけの人もいる。その努力をチャーミングに感じるときもある。
でも何でハミ出したものが好きなのか。
俺は子供の頃から芸事を見物することが好きだった。今でも何でも見る。いろんな芸を見続けていくと、何となく上手い下手がわかるようになってくる。
芸事はすべて、素人が辿り着けないレベルの技術が絶対に必要だ。こっちが上手いとかあれは下手だとか、それなりにわかるようになってくると、その先に別な基準があるのがわかりだす。
例えば高いレベルの技術と経験を持つプロをずらりと並べてみよう。そこまで行けば皆技術があるから「上手い下手」は基準にならない。でも全員の芸が好きなわけではない。明らかに惹きつけられる芸とそうではない芸がある。
「上手い下手」の先にある基準。それは面白いとか凄いとかゾッとするとか忘れがたいとか狂ってるとか、うまく言えないけど更に上の何で、それは明らかに存在するのだ。それを俺の言葉だと「ハミ出す」と言うわけです。
付け加えれば、「ハミ出す」には狂気だけではなく知性が絶対に必要だ。そこにいながらそこ自体を疑う力というか。知性はデタラメを再構成し魅力に替えてくれる。そして強さも必要。快楽にただ溺れるのでは圧力は失われてしまう。
高い技術と狂気と知性、そして強さを持つこと……。
『デンデラ』という映画を撮ったとき、集まったスタッフの前で「映画とは、誰が一番頭がおかしいかを競うチキンレースです」と言ったことがあった。「そういう映画ばかりではありませんよ」と心あるスタッフに窘められたけど、俺の好きな映画にはどれもそういう感じがある。
この世界、「頭がおかしい」というのは最高の褒め言葉なのだ。どれぐらい俺は頭がおかしいのだろうか。怖ろしいことにチキンレースってのは参加しているかぎり続くものなのである。
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