天願大介のなまずブログ

2014年1月30日

若松武史さんのこと

ステーキハウス(本当は和菓子屋さん)の魔王。若松さんは身体能力が高く、肉を切って食べる仕草までもが優雅であった。

前回、ハミ出している映画が好きだと書いた。どんな俳優が好きですか、と問われても答えは同じだ。ハミ出す人。内圧の高い人。内側から力が溢れ放射している人。「上手い下手」ではなく、外見や性格ではなく、もちろん芝居のテンションなんかではなく、そこにいるだけで圧力が伝わってくる人。俺はそういう俳優に魅力を感じる。

今回『魔王』の主役である魔王役は若松武史さんにお願いした。
若松さんとはこれまで三回仕事をしている。
最初は『世界で一番美しい夜』のときだった。右翼の狂った宮司の役で出ていただいた。若松さんは寺山修司の天井桟敷の俳優だったから、大学時代に参加した寺山組の『さらば方舟』の現場ですれ違っているのだが、こちらは一番下っ端のスタッフだし、ちゃんとお話したことはなかった。
若松さん演ずる宮司は完全に狂っていた。真冬の星空の下、巫女さんを抱えて激しくファックするシーンも嬉々として演じてくれた。
その後、月船さららさんと出口結美子さん(引退)の演劇ユニットmetroで『舞台版 妹と油揚』を上演するとき、悩み事相談屋の垣乃花顕太郎役で出てもらった。
これは俺の最初の映画『妹と油揚』を舞台化したもので、映画を舞台にするとはどういうことかについての俺なりの実験でもあった。
舞台化にあたって、加えたものの一つは人形だ。主に登場するのは出口さんが操る簡単な仕掛けの人形。そして若松さん演じる垣乃花先生のポケットから小さな人形が出てくる。このキューピーのような小さな人形が突然喋り出し(腹話術的な表現)、若松さんとの無意味な掛け合いになる。若松さんがやると、これがおそろしく無意味になり、書いた俺も意図していない、無意味の先にある暗く湿った不気味な何かの存在までもがぼんやりと見え出したのである。つくづく恐ろしい男だ。

後ろに貼ってある絵はソビエト時代にモスクワの市場で買ったもの。自主映画なので全編俺の私物が登場しています。

震災後『引き際』を上演したときも、同じ役で出ていただき人形との掛け合いをたっぷりやってもらった。耐えられなかった観客もかなりいたそうだが実に素晴らしかった。耐えがたいほどの無意味こそ、贅沢の極みではないか。ちなみにその次の『なまず』のときはご子息の若松力君に出演してもらった。力君は父親とタイプが違うけど、そのうち爆発すると予言しておく。
『妹と油揚』のチラシを作るとき俳優それぞれに惹句をつけることになり、若松さんには「アングラの魔王」とつけさせていただいた。他に思いつかない。外波山文明さんには「魔界の門番」、寺十悟さんは「小劇場のリビングデッド」だったと思う。
若松さんは色気があって大人で、仕事に対して(当たり前だけど)プロフェッショナル。もともと美大出身の画家でもあり強い色彩の奇妙な画を描いている。画を描く人は当然己の内面と向き合うわけで、そこでいろんなものを吐き出しているのだろう。そのためか我々の前にいる若松さんは穏やかで、どこか超然としていて余計な言動はない。
一緒に仕事しているとき、寺山さんのことなどいろんな話を伺ったが、どれも驚くべきことばかりなのに、自慢するでもなく淡々と語るのも大人だ(アングラの先輩たちが経験してきたことは今の若者には狂っているとしか思えないだろうな)。
千葉ロケでは俳優たちは古い旅館に泊まってもらった。最後の一晩だけそこを追い出されることになり慌てて他の宿を探していると、若松さんは「俺はスタッフと泊まる」と、我々の雑魚寝宿舎にトランクを持って現れた。
その晩は宴会になって若松さんは上機嫌でスタッフたちと酒を飲んだ。俺は食材を買いに走り出演者の松浦君が鍋を作りまくり、ヒロインの月船さんも顔を出し、下ネタから政治思想経済あらゆることが議論され、若松さんは最後に意識を失って椅子から転げ落ちたのだった。
『魔王』の準備を始めるとき、俺はまず若松さんに電話した。
「自主映画を撮るのでギャラは安いんだけど出てくれませんかとおそるおそる切り出すと、「いいですよ」と即答してくれた。その言葉でホッとした。無意味と不条理が延々と続くこの映画の中心には若松さんのような「普通でない」俳優が絶対必要なのだ。撮影初日、若松さんの演技を見たとき、俺は間違っていなかったと確信した。
ところで、今回の映画では踊る場面がちょっとだけある。その振付を若松さんに頼んだ。踊り手にかなり問題があったんだけど、好事家諸氏、アングラの魔王・若松武史振付の舞踏が一瞬だけ見られますぞ。

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