天願大介のなまずブログ
ストーリーについて
『魔王』は物凄く大ざっぱに言うと、方角を巡る闘いを描いた作品だ。もちろん普通の「闘い」ではないが。
方角というものがあって、いいとか悪いとか言われる。
どうしてそうなのか不思議に思い、いろいろ調べてみると大変歴史が古い。遡れば大昔の中国の占星術に辿り着く。
いろんな星(神)が地上に降りてきて悪さをするので、そこをよけて進まないといけない。そのために「方違え(かたたがえ)」という妙な方法が考案された。
「方違え」とは簡単に言うと、一旦違う方角に移動して、そこから目的地を見ると別な方角になっているので安全に行けるという理屈だ。神様にフェイントをかけるような感じ。こんな頭がおかしいとしか思えないことを昔の人たちは本気で信じていたのだった。
しかもその神々がまた独自の周期で移動し続ける。三年おきだったり五日周期だったり、彼らの複雑な動きによって悪い方角が刻々変化しそれが重なるから、問題はますます複雑になっていく。
源氏物語にも、女に会いたいけど方角が悪くて「方違え」しようと思って知らない女の家に上がってしまい、そこの女と出来ちゃったという話がある(帚木)。
どうやら神様というものは怖いもので、自分にとっていいことを引きだそうとしても、手続きを間違えると激しく祟るようだ。恩恵よりも災難のほうが大きい。死ぬからね。御先祖たちは日夜そんなことを考え、びくびくしながら生きていたのである。
「方角にのめり込んだ結果、まっすぐ歩けなくなった男」で何か作れないかと思ったが、モンティ・パイソンのスケッチ(コント)じゃないから、それだけでは映画にならない。
『魔王』を書くとき、それを思い出し、研究ノートを読み返すと、「大将軍」という凶悪な星がある。他にも「天一」とか「金神」とか「太白」とかいろいろある。「大将軍」という名前も何となく面白いし、災厄から逃げようと思ってまっすぐ行けない男自身が、実は災いをもたらす凶悪な存在で、たまたま別な悪神たちがその土地に出現して……などと連想していくと頭のおかしな物語ができあがった。
よく脚本家志望の人に聞かれるが、ストーリーはこうして作ればよい。ストーリーなんて誰でも作れるし、どうにでもなる。テーマは必要ない(書いているうちに出てくる)。まず必要なのはアイディアだ。できるだけ強いアイディア。
アイディアの連想は直線で進むわけではなく、数本の線が同時に「方違え」的蛇行迂回を繰り返しながら伸びていく。伸びるだけ伸ばすのがコツだ。でも自分が狂っているかどうか不安になったところで止めること。
昔、『妹と油揚』という映画を撮ったときのことだ。映画が完成するとスタッフやキャストが俺のところに来て、「こういうことだったんだね」と言う。皆わかってなかったのである。
『魔王』でも同じことがあった。
悪くない。映画とは「誰が一番頭がおかしいかを競うチキンレース」であり、監督の仕事とは「わかっていることを撮るのではなく撮りながらわかっていく」ことなのだから。
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