天願大介のなまずブログ

2014年6月13日

『魔王』解説対談 天願大介×土田環(前編)於 2014年5月26日 川崎アートセンター

先日、川崎アートセンターの上映後、ゲストと対談形式で解説トークをした。それを二回に分けて掲載する。上映後なので内容に踏み込んでいる。『魔王』未見の方はご注意あれ。

土田環 Tsuchida Tamaki
日本映画大学准教授。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。ローザンヌ大学(スイス政府給費留学生)、パリ第8大学(フランス政府給費留学生)、ローマ第3大学(イタリア政府給費留学生)へ留学。立教大学ほか非常勤講師。専門は映画史・映画美学。学生時代より内外の映画祭や企画上映、撮影現場に携わる。編著書に『ペドロ・コスタ 世界へのまなざし』(2005)、『嘘の色、本当の色―脚本家荒井晴彦の仕事』(2012)、『こども映画教室のすすめ』(2014)など。

天願本日はようこそおいでくださいました。監督の天願です。今日は日本映画大学の同僚である田辺秋守という哲学の先生に喋ってもらう予定でしたが、田辺さんの喉が潰れまして声帯の炎症でまったく喋れない状態になってしまい、同じく映画大学の同僚の映画の専門家である土田環先生に、急遽代打で来てもらいました。

土田どうも今晩は。二日前に代打を頼まれた土田です。今日は一人の観客としてこの映画を観て、皆さんと疑問が共有できればと思っています。どこからいけばいいかな? いろいろありますけど……ドイツ語っていうのはあんまり理由ないんですか?

天願理由ではなく音ですね。本当はスウェーデン語とかデンマーク語とか、北欧の言葉がいいと思ったんですけど、日本人には発音が難しすぎまして、ではドイツ語にしようと。電話の向こうにいるのはロシア人です。誰にもわからないと思いますが(笑)。ロシア人と日本人が共通語のドイツ語で会話をしている。その設定で田辺先生にドイツ語指導をしてもらいました。

土田いろいろ読み込んでいくというやり方が通用する映画かというのもあるんですけれども……「なまず映画、あるいは第二の選択」というのは、僕は天願さんのお芝居は拝見していないんですけど、かつて「なまず」という舞台もあったようですし、なまずは地震と関係があると言われてきました。この映画は震災後、磁場が狂うということがひとつのテーマですよね。あるいは「方違え」。方位というものがズレていくことでさまざまなことが引き起こる。そこは面白く感じました。
生意気なことを申せば、この手の悪だとか魔に関する映画には大体パターンがあります。正義対悪とか、悪とか魔っていうものが人に伝染するとか。あるいは閉じられたコミニュティの中に魔王のような人が来て、そのことでそのコミニュティを成立させている規則が崩れていくとか。この映画でも若松さんの演じている人が3年前、歴史資料館に来て、そこから人がいなくなったり、みんながおかしくなっていく。でも、この映画を観ていて、これはコミニュティの崩壊を直接描いた作品ではないと思いました。僕が観てきたそういう、魔に汚染されちゃうとか、人にどんどんエピデミックのように伝わっていくとか、そういう作品でもない。だから、すごく不思議だなと思ったんです。


一見この映画というのは、魔王がカオスを求めているように見えるんですよね。で、それに対して秩序の側に月船さんの演じている嘉子がいる。単純な対立なら楽なんですけれども、そうじゃなくて、磁石を持ったひとりの男がそれを頼りに行動するんだけれど、実は森の中に迷い込んじゃったみたいに、どんどんズレている所を進んでってよく分かんなくなっちゃったっていう話で、これはいい意味ですが、魔王が魔王に見えなくなっていくんですね。
魔王も被害者なんじゃないか。魔王もこの狂ってしまった世界の迷い子のような感じがしてきます。だから最後に嘉子がいったい誰と交信してるのだろうというのが気になったんです。嘉子はそこで、むしろカオスを肯定してるかのような発言をするんですね。メルトダウンが始まってってどんどん僕達の世界が秩序付けられない、意味付けられないものになっていくだろうと。最初は月船さんも、私は意味付ける、ということをやるんだということをを言いながら、でもそうではどうもないほうに惹かれているというか……。一人魔王が消えたらまた魔王というか、カオスに惹かれてしまった人がそこに出てきた、というふうな感じがしてですね……たいてい道に迷い込んで迷走していく作品というのは脳内で展開していくので、僕イライラしちゃってすごく苦手なんです(笑)。なのに、この映画は全然イライラしないのが不思議だなと思いました(笑)。天願さんが上品だという説もあるんですけど、それを脳内でやってないってことが大きいと思います。
現場は辛かったかもしれませんけど、面白がって作っているのは観てる人に伝わる。あの人形もそうだし、いろんな「物」ですよね、方位磁針がぐるぐる回るのも。音もそう。僕、臼井さん(録音)の音が、他の作品でも好きなんです。魔王は若松さんでいいんですか? 

天願劇中では魔王という言葉は使ってないし、名前を呼ばれたことがない。歴史資料館の館長だということだけで。でも若松さんが演じたのが魔王です。土田さんの仰ったことをちょっと説明しますと、カオスと秩序の問題については、変化するっていうかな、言ってることが最初に言ってることと後半に言うことで微妙にズレていく。そういう感じにしたかったんです。登場人物が最初に言ってることが最後まで変わらないならば、そんな映画を撮る必要はないでしょう。なんというかその、正しい脚本の書き方とか正しい映画の作り方みたいなことを、いちいち疑問に思って考え直してみるということをやったんですね。だから、わざとです。意識的にそういうふうにしたということです。
最初に「方違え」っていう文字が出ます。陰陽師とかそういうものをお好きな方はご存知だと思うんですけど、行きたい所にまっすぐ行けないので、一回横に避けてから目的地を見ると方角が変わってるからオッケーっていう、完全に頭おかしいとしか思えない方法ですよね。ところが昔の人はこれを大真面目に考え、大真面目に守っている。今でも、家を建てるときに方位がどうこうとか、お墓を建てるときに向きがどうこうとかっていうことが続いているわけじゃないですか。つまり我々は今、前近代的なものから逃れているように見えるけれども、実はものすごく縛られているわけですね。日付や曜日も何もかもそうです。

千葉県市原市田淵の養老渓谷「磁場逆転の地層」。 緑のタグは現在と同じ磁場の地層、黄色のタグは磁場が不安定な時代の地層、赤色のタグは磁場が逆転していた時代の地層。

ところが磁石ということで言いますと、この映画は千葉の久留里というところで撮影したんですが、近くに養老渓谷があって谷底に川が流れていて、谷を降りていくと地層が剥き出しになっている場所があるんです。そこに「地球磁場逆転の地」って書いてあるんですよ。実は何十万年かに一度、北極と南極は逆転しているんです。今北極だったところが南極だったわけですね。何でそうなるのかは知りません(笑)。地層上に磁場が逆転した証拠が残ってる。それが世界に2カ所だけあって、一つはイタリアで一つはそこなんですね。で、そこで撮りました。川で踊ったりしているところは地球磁場逆転の地です。要するに方角なんてものも信用できないわけです、本当は。だって北が南だったんですから。しかし人間というものは何かを信用しないと生きていけないので、つまり嘘を信用して生きているわけです。
ところがメルトダウンが起こってしまった。そうするともう嘘が嘘として成立しなくなる。そこから様々なことがいっぺんに起こってきたように、僕には見えるわけです。『魔王』はどういう映画か説明するのは難しいと思いますが、僕には日本がこういうふうに見える、そのことを、矛盾に満ちたこの世界を、そのまま映画にすべきだろうと思ったんです。
全体を通してメルトダウンしていく世の中に対して、それを分析してこうだ、っていうことではなく、こんなんじゃ困る、って怒るわけでもなく、ひたすら馬鹿にしてやろうと。現実の社会を肯定する映画のほうが受け入れられるんですけどね。
だから切腹なんか、明らかな悪意で撮ってるわけです。しかし切腹をすることで何かが解決するという、これも完全に頭のおかしな考え方を我々の先祖はしていたわけで、そういったもの一つひとつを検証して、馬鹿じゃないのってちゃんと言うべきじゃないかな。

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