魔王 | なまず映画、あるいは第二の選択

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2015年5月16日

なまず映画スペシャル鼎談(2) 三浦誠己×天願大介×田辺秋守於 2015年5月6日 ザムザ阿佐ヶ谷

天願こういう作り方ですから、普通の映画を作っても駄目だと思うんですよ。映画館で普通にかかっているような映画では勝負にならない。だから実験的な要素を入れようという気持ちはありました。言葉を使うことも前からやってみたかったんです。例えばこれでオペラを書いたら、お客さんは違和感を感じないで普通に観てしまうんじゃないかな。つまり、俳優さんがどういう表情をして、どういうつもりで喋るかということで、かなりの情報量ってのがあって、中身がわからなくても大切なことは伝わるのだということです。考えてみれば外国の映画も情報の全部は伝わらない。田辺さんがよく言うように字幕なしで観たって伝わる訳だから。

田辺大学で学生たちに言うのは、ハリウッド映画であれ中国映画であれイラン映画であれロシア映画であれ、とにかく字幕を外して二時間観ろと。字幕というのは下に出てたり右に出てたりして、どうしたってそっちに目が行くわけで、全体の画を観られないわけです。映画というのはサウンドと動く画でできているものなので、余計な字幕は外して観たほうがいいという話を時々するんですが、最近我が意を得たりという映画がありまして、ウクライナ映画で『ザ・トライブ』。これは聾唖の人たちが主人公の映画です。で、全編手話で会話をするわけです、ウクライナの手話で。だから日本人の聾唖の方もわかるわけじゃないんですね。ところがこの監督は字幕を一切付けないんです。どうしても細かい所はちょっとわからないんですが、それでもほぼ理解できます。彼等の表情といわゆるボディ・アクション、それを観ているだけでわかります。ただ、『赤の女王』の台詞は必ずしもすべて無意味ではないですよね。ところどころ、何かから引用しているってのが見えるようなものがあって……監督に最初に愚問をしたことがあるんですね、これ現代語の字幕を付けるの? と。もちろんそんなものは付けないと、それが圧倒的に正しいということは、この完成した映画を観るとわかります。何度か観ていると、実は微妙に俳優の動きや感情とシンクロしている言葉なのだということが見えてきます。で、監督に聞いたところ、これらは元禄の十六年かな、18世紀の始め、1703年かそれぐらいに出た「松の葉」という冊子があります。小唄だとか端唄だとか長唄みたいな、当時でいう流行歌、俗謡ですかね、その歌詞を集めた本があるんですが、かなりそこから引用している。

天願「松の葉」はかなり利用しました。他にもいろいろ、河竹黙阿弥の台詞なんかも使ってます。歌舞伎の台詞もみんな七五調だし、民謡も小唄もそのリズムに沿ったものが圧倒的に多くて。面白いのは言葉と音のリズムですね。音の面白さと微妙な意味の組み合わせなんです。『赤の女王』ではもう一つ、動物を出そうと。『魔王』を撮ったときは真冬でした。あのときは人気のないシャッター街なんかを撮ってて、次は労働や動物を撮りたいと思って、それで牛舎を探しました。お金がなくても、動物を出すだけで何かこう、いい感じになるっていうか(笑)。ワンルームマンションをいくら撮っても、つまんないじゃないですか。でも生活を感じられる場所で実際に肉体労働して、そこにいる動物も一緒に撮る。それだけで、そこで生きてる感じがすると思うんです。撮らせてもらったのは大変いい牧場で、オートメーションではなく昔ながらのやり方でやってる牧場で、実際に鶏や鴨が牛の足下を歩いている。すごく良かったですね。

三浦あれ、全部リアルな牛糞です(笑)。全部本物でやらせていただきました。

天願あの牧場はホルスタインが中心ですが種付け用に和牛も飼っていまして、あの黒い牛は和牛、雌牛ですから女優さんです。和牛は甘やかして育てろっていうくらい、人間と触れ合って育てられて、可愛いんです。一回暴れて走り回って大騒ぎしたことはありましたが。



三浦逃げ出しましたね(笑)。

天願人間の暮らす世界に人間とはサイズが違うものも生きていて、鳴いたり自己主張している。それを人間と一緒に撮る。三浦さんはすごく度胸がよくてね。

三浦いえいえ。

天願平気で牛の中に入っていって、アッという間に馴染んだ。さすがでした。

三浦楽しかったですよ。でも完成した作品を観て、牛の顔と僕の顔のカットバックがあるじゃないですか。いや、牛の顔には負けるなあと思いましたね(笑)。70歳80歳にならないと牛とはカットバックで対決しても負けるなあと。

天願『魔王』もリアリズムではない映画ですが、『魔王』は理屈でもって人を追い詰めたりするので、若松さんはずーっと喋り続ける。もう膨大な台詞を若松さんに書きました。今回は感染する言葉はあるけれども、全体としてはハリー・ポッター的って言いますか、そういうのを目指して、途中でそれは無理だと気づいて(笑)撤退しましたが。もともと日本映画の状況に対する苛立ちみたいなものが僕の中にあって、思いつめて『魔王』を撮ったんです。で、こういう形で上映してるんですけれども、一本だとなかなか厳しいので、もう一本撮ろう。前は冬だったから今度は夏に撮ろうと思って、これもまた無理矢理撮りました。また非常に特殊な撮り方で……でも撮り方も上映の仕方も含めて実験というか、自分なりにこうしたほうがいいんじゃないかなという提案をしていこうと。

三浦なんでこんなことすんのやろって最初思ったんですけどね、なんでこういう体制で撮影してこういう体制で公開すんのか。でも考えると、そういう人が今いないというか……僕が言うようなことでもないんですけどもスッゲーなと思って、僕は現場行って本当勉強になったし、作品の上がり観て勉強になったし、なんかもっと広がってね、沢山の俳優が出たいって言って、こう、体制が大きくなっていったらいいなと思うんですけど、それは違うと。天願さんは、大きくなればまたそれは本末転倒になるみたいな話もされてて、ああ、スッゲーこと選ぶんだなっていう。僕も身体が空いてれば車両部でも制作部でも行きたいなという(笑)思いになった現場で、楽しかったです本当に。

田辺私も制作現場に何日かいたんですが完全合宿制なんですね。ほとんどもう若衆宿というか若者組みたいな、あの牛舎で働いてる人たちと同じような生活をして、合宿場で同じ飯を食い同じ酒を飲むという感じでした。夜這いだけはなかったとは思いますけれども(笑)、まあ、原点なのかなあという感じですね。

天願ゲリラ戦なので、でも革命を起こそうということではないです。僕の感じだと、その、嫌がらせをしてるという感じです。嫌がらせをして、怒られそうになったらサッと逃げる(笑)。で、また別の所で嫌がらせをするっていう。ずっと嫌がらせをし続けることはできないだろうかということですね。そういうことでもないと、多分救われない若い人もいると思うんです。嫌がらせも出来ない状況の中で閉ざされてイライラして、やっていくなら言われた通りやんなきゃいけないみたいな……でも考え方を変えれば、それぐらいは出来んだよという。前も言いましたが、映画館で上映しないというのも、もともと映画が出来たときに映画館は無いわけです。映画館は後からできました。演劇もそうです。芝居小屋があって演劇が始まったわけではない、誰かが演劇をやり始めて、結果、芝居小屋ができる。映画をあちこちで上映しているうちに映画専門の小屋ができた。それがいつの間にか映画館でかかるものが映画ということになってくる。文明の発達でそうなるんだけれども、原点を考えると、ちょっと違うんじゃないか。小沢昭一さんがかつて芸能人としての自分のルーツを探って、様々な芸能を尋ねてインドに行ったり、路上で物を売ったり、お釈迦様の教えを歌で伝えたりしている芸を記録したことがありました。芸能というものは地べたから始まっている。板の上は後なんだと。同じような感じです(「後三分です」というカンペが出る)。
えー、そろそろ時間のようなので『泥船』の話を少し。したくないですけど(笑)しましょうか。『そして泥船はゆく』という映画をこの後かけますが、これは僕が教えたことのある渡辺という監督が撮った映画です。『赤の女王』と『魔王』に出てる知能の低いデブがいますよね(笑)。それが渡辺です。三浦さんは前から知ってるの?

三浦僕は彼の作品には出てないです。前にあの松浦祐也って『魔王』と『赤の女王』で喜久夫の役をやっていた彼から、観てくださいって渡されたDVDがあって、それが『八月の豚』?

天願『八月の軽い豚』、彼の卒業制作ですね。

三浦それを観て、面白いなあと思って。で、彼と松浦がやってた舞台観に行った時に会ってお話ししたという。でも彼が演じているのを観るのは初めてでした(笑)。

天願渡辺はできそこないのどうしようもない学生だったんですけど、卒業してプロの現場に出て、でもなかなか通用しなくて、東京を引き払って栃木の大田原市に戻りました。でも映画をあきらめられないと泣き言をいうので、そこで映画撮ればいいじゃないかって言ったら……渡辺はすごく太ってて挙動不審なんです。だからバイトの面接を全部落とされちゃう。唯一雇ってくれたのがプールの監視員で、一年間そこで働いてキャメラを買って四人で撮った映画です。それが東京国際映画祭になぜか選ばれまして、とにかく運がいいんですよ、あいつは。

三浦いやあ、強運ですね。

天願バカでデブなのに(笑)。その人が撮った『泥船』というのも、これも我々と同じようにいろんな所で上映していて、東京では半年前かな? 新宿武蔵野館で公開しました。それ以来東京で観るチャンスは無いので……まだ観てないんだよね?

田辺ええ、これから拝見します。

天願いやびっくりしますよ、きっと。別の意味でね。これもまた映画の常識とかいろんなことから自由になった作品です。言っておきますが、渡辺はバカだから気づいたら自由になっていたということで、僕とは違います(笑)。でも、その自由な感じが好きだといってくれる人もいるようです。この後『泥船』をかけますので、お時間があれば是非ご覧ください。本日はどうもありがとうございました。

三浦・田辺ありがとうこざいました。

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