魔王 | なまず映画、あるいは第二の選択

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2014年3月14日

りりィさんと小林麻子さんのこと

今回、一日だけの撮影でお願いした女優さんが二人いる。
失踪した少女の叔母聡子の役りりィさんとは、今回初めて仕事をする。りりィさんは美術デザイナーの稲垣尚夫御大(今村組も天願組もやってくれている)の友人で、いつも噂は聞いていた。

りりィさん演ずる聡子は、失踪した姪の貼り紙を電信柱に貼って歩く。隣は手伝スタッフの映画大学生。初日だから余裕がある(最後は死人のようだった)。

りりィさんは御亭主と鴨川に住んでいて撮影現場の久留里までは近い。しかしミュージシャンとしての仕事が年末立て込んで、可能なスケジュールはピンポイントだった。それでも本人が出たいと言ってくれて、やはりミュージシャンは洒落がわかる。
早朝の撮影を組んでいたところ、前日の晩、落石で道路が不通だという情報が入ってきた。千葉の内陸部は山間を走る道が多く、落石や土砂崩れに弱いのだ。結局、りりィさんは間に合ったのでホッとしたのだが、東京からの長距離バスも不通になって、他の俳優さんの移動に影響してしまった。
千葉に入った次の朝、雑魚寝宿舎で叩き起こされた我々は命令一下布団を片付け掃除をし、雑魚寝宿舎はそのまま聡子の家のロケセットに変貌した。ロケセットで寝泊まりしているわけで実に無駄がない。
聡子はこの映画の中では唯一普通の人だ。聡子のような役を誰にやってもらうかで映画の雰囲気が決まる。
早朝から日没までの撮影はすべて月船さんとの絡みで、りりィさんは懸命に姪の捜索を続ける田舎のおばちゃんになりきって、最後はある場所で絶命までしてくれたのだった。
演技をしていないときのりりィさんは自然体で、ゆったり落ち着いてそこにいる、という感じだった。
たった一日の撮影だったけど、本業の忙しいなか我々の自主映画に参加してくれて感謝しています。
小林麻子さんとは久しぶりの仕事になる。
『世界で一番美しい夜』の初号試写のとき、見終わった麻子さんが俺のところに走ってきて「監督、死なないで下さいね!」と言った。あんな映画を撮ったからすぐ死ぬと思ったのだろう。幸いなことに俺はまだ死なず、『魔王』で麻子さんと再会できた。

廃業することが決まった某病院をお借りしてのクランクイン。超低予算だけに、スタッフのちょっとした工夫が役者を生かしてくれる。

彼女と最初に会ったのは二十年近く前、ある短編に出てもらったときだ。そのときは何だかわからない謎の女の役だった。
麻子さんは華奢で不思議な雰囲気の女の子としてCMやいろんな映画に出ていて、実際そんな感じだったし、今でも華奢で年齢不詳のままだ。女性が不思議な雰囲気のまま年を取るとちょっと怖い感じになる。「不思議」は本来怖さを内包しているからだ。で、麻子さんもちょっと怖くなったのだが、それはそれで悪くない。
先日、西部邁先生のゴリゴリの保守啓蒙番組(MXTV)でアシスタントをしているのを見かけて愕然とした。あの小林麻子が、なぜアシスタントを。なぜ西部邁の番組に。本人に訊ねたところ、そうなんです、あの番組のおかげで、あたし、パキスタンがインドから独立したのを知ったんですー、と甲高い声で喋り出し、結局わからないままである。
今回は意識不明の魔王の妻の役だ。台詞もないしずっと寝たきりなんだけど、この妻は魔王のある行動によって忘れがたいある反応を示す。これ見て忘れる人は誰もいないだろうなあ。これ以上は書けないので、ぜひ御覧下さい(予告編にちらりと出てきます)。
クランクインの朝、西新宿の某病院に現れた小林さんはいつものように素っ頓狂な声で挨拶すると寝間着に着替え、横たわって寝たきりの妻の役を演じた。昼にはすべての出番を終え、じゃあ皆さん頑張って下さいねーと明るく、ひらひらと去って行ったのだった。

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『魔王』解説対談 天願大介×田辺秋守(1)於 2014年6月29日 ザムザ阿佐ヶ谷
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