魔王 | なまず映画、あるいは第二の選択

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2016年7月23日

なまず映画上映の夏/アングラと唐十郎

夏である。
夏といえば、なまず映画である。
ということで、夏のなまず映画上映のお知らせです。
なまず映画は映画館で上映しない。どんなところで観たか、それも映画体験に含まれるべきだと我々は考えている。条件は厳しいけど、それでもやらせてくれる場所はある。わざわざ映画を観に来てくれたお客さんと一期一会の上映ができる。時間があれば僕も顔を出すことにしている。

8月6日には目黒の高福院という真言宗のお寺で『魔王』『赤の女王』を上映する。お寺なので急な法要が入ったりすれば延期になる可能性もあり、その点はどうかご容赦願いたい。これまでもいろんなお寺で上映させていただいたが、お寺で見るなまず映画はまた格別なものですぞ。
8月20日は名古屋で『魔王』と『赤の女王』の上映。僕も行きます。俳優の井村昴氏も行きます。名古屋は何度か上映しているが、今回は井村さん曰く「リベンジ」だそうだ。映画通の皆さん、お楽しみに!

『からゆきさん』より
『ブブアンの海賊』より

9月17日には目白の日本庭園にある庵での上映。日本の夏にふさわしい上映場所である。この日は『魔王』『赤の女王』はもちろん、今村昌平のドキュメンタリー二本も上映する。『からゆきさん』と『ブブアンの海賊』。なかなか見る機会のない作品なので、是非ご覧いただきたい。どちらも映画ファンなら見ておくべき作品。最後に僕のトークもあります。 詳しくは上映情報を参照して下さい。

――さて、今年の春、戯曲を二本書いた。
一本は久し振りのmétroの新作。演劇も活動を続けるためにお店を広げて行くのが普通だが、なまず映画を経験した俺としては別なアプローチも探ってみたいし、いろいろ考えているうちに今回もかなり変わった形式の戯曲になってしまった。どんな上演形態がいいのか、これから画策していくので、métro愛好家の紳士淑女はしばしお待ちあれ。 そして、もう一本は映画『カリガリ博士』を下敷きにした『天願版カリガリ博士』だ。
十貫寺梅軒という状況劇場出身の怪優に頼まれたもので、梅軒さんとは長いつきあいになるけど映画やTVでしか仕事をしたことがない。そもそもこの話を引き受けたのは、俺の大好きな俳優で音楽家で「ナジャ」のマスターだった、亡くなった安保由夫氏のことが微妙に絡んでいるのだけれど――この話は少しややこしいので、いずれちゃんと書きます。
まず『天願版カリガリ博士』を来年五月に上演することが決まった。もちろん演出も俺が担当する。状況劇場や早稲田小劇場出身のアングラ俳優たちと江戸糸あやつり人形の一糸座とのコラボなので、どうなっちゃうのか俺にもわからないが、異物がぶつかって生じる火花こそ演劇や映画の魅力だとすれば、面白くなることは間違いない。

ところで、俺は少年時代からいつも何かを研究していて、複数の問題を並行して勉強し考える癖がある。理屈よりも腹で納得することが大切で、納得できたものはそのうち作品になっていく。
演劇をやりながらずっと考えてきたことがあって、一つはアングラ演劇。「アングラ演劇とは何だったのか」。もう一つは小沢昭一の仕事で、「小沢昭一が芸能史の研究で掴んだものは何だったのか」。どちらも俺には重要な問題だ。この二つはかなり長いこと考え続け、既に撮ったり舞台化したり書いたものにも、それは反映している。
「アングラ演劇とは何か」については、俺的には結論が出た。今はその先の問題について考えているところだが、せっかくだから俺的結論をここに書いておこう。

結論:アングラ演劇とは、唐十郎のことだ。

アングラ的なるものとは、唐十郎の戯曲(劇構造・台詞)、独特の演出、そして紅テントの舞台のことを言う。唐さんと状況劇場が正統アングラ演劇で、他はアングラ的、アングラ風、アングラ味であってもアングラではない。そう考えるとすべてがすっきりする。
ど真ん中に褌一本の金太郎さんみたいな唐十郎がにこにこ笑って胡座をかいている(目は怖い)。隣にポックリサンダルを履いて立つ寺山修司は、アングラではなく、アバンギャルドと呼ぶほうがわかりやすい。その周りを取り囲むようにいろいろな奴が立っているが、中心は唐十郎で、そこだけがアングラ王国だ。唐さん自身はアングラと呼ばれていい気持ちはしなかったみたいだけど、でも唐さんがアングラそのものなんだから仕方ない。

画:猿松細人

あの時代、あらゆる者が先頭を走る唐十郎を意識し、尊敬し、憎み、影響を受けた。繰り返しになるが、彼らも総体としてアングラと呼ばれたりするけど、それはマスコミがレッテルを貼っただけのこと。アングラは唐十郎だけで、つまりアングラ演劇とは唐十郎一代の芸なのである。
だからアングラは続かなかったし、誰もそれを継承できなくて当然だ。ある作家、詩人、画家、歌手、俳優が新しい何かを作り出し、何かそのものとして生きて、そのものと一緒に消えていく(唐さんはまだお元気ですが)。一代の才能とはそういうものだから。
唐さんが作り出した劇構造や台詞は大変な衝撃を与えた。考えて作ったというよりも無意識に出てきたのだと思う。だから、なおのこと衝撃的だったのだ。同世代、その下の世代はもちろん、おそらくは海外にまで影響は広がっていく。しかし結局、それは拡散して薄まって毒を抜かれ、新劇(リアリズム)の老鯨に呑み込まれていったのだった。それが俺的な理解だ。

幸いなことに、俺は唐さんとも寺山さんとも仕事をしたことがある(どちらも映画の現場だ)。その周りの人たちとも何かと御縁がある。
俺も若い頃、アングラやアングラ風を体験したけど、世代的にはギリギリ間に合ったという感じ。それでも、才能がぶつかり合って生まれる火花と熱、表現の根底にあるデタラメでいい加減で狂った欲望、いわばアングラの魂とでもいうべきものには触れることができた。
だからというわけではないが、俺は自主映画から商業映画(最初の作品で唐十郎に出てもらった)、そしてなまず映画へと活動を続け、唐さんがテントを立てる場所を探して歩いたように、我々もなまず映画の上映場所を探し、幻の観客を求めて上映を続けている。
形式に影響されたのではない。一代の芸は真似しても無意味、俺は俺の芸を追求していくだけだ。

小沢昭一については、次回書きます。

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